真珠パールエッセイ・私の真珠物語
 

魔法の真珠      白石佳子


 毎年、お盆やお正月には、親戚中が、祖母の家へ集まった。普段、遠く離れていて会えない、いとこたちに久しぶりに会えるので、私は、そんな日は朝からそわそわして、祖母やおばたちが、せわしそうに仕度に追われている空気の中で、胸を躍らせながら、みんなが到着するのを待っていた。
「まだかなあ……。早く来ないかなあ」
少しだけ、待ちくたびれて、溜め息をつく。
  その時、私の目に、一瞬止まるものがあった。それは、祖母のタンスが置いてある畳の隅に、キラリと輝く、まあるくて、クリーム色をした、小さな珠だった。
  私は、その神秘的な輝きを放つ、小さくてきれいな粒をそっと拾った。
「おばあちゃん、おばあちゃん、これ何?」
  巻きずしを盛りつけていた祖母が、一瞬手をとめて、私のさしだした手の中になる、小さな珠を見た。
「ああ、それは真珠よ。きれいじゃろ。あげよか」
「うん……。ありがと」
シンジュ……その名前は、しっかり私の心の中に刻み込まれた。私は、ぎゅっと真珠を握りしめると、そっとポケットの中にしまった。
  いとこたちが勢揃いした。私たちは、それはもう、すさまじい遊び方をした。「仮面ライダーごっこ」と名付けて、順番に、押入の上の段から飛び降りては上り、変身!と叫んでは、飛び降りた。タオルケットをマントにした。下に座布団を重ねて敷き詰めて、バウンドするのが面白くて、何度も何度も、繰り返していた。きれいに片づけられていた部屋は、どこへやら。数人の子供にかかると、もう、散らかし放題だ。
  ひで君が、飛び降りた。次の瞬間、
「痛い!」
ひで君が叫んだ。バランスを崩して、座布団のないところに落ちて、膝をついてしまったのだ。畳で、少し膝がすりむけたようになっていた。「大丈夫?」
  ひで君のところに駆け寄った。ひで君の双子の兄、りゅう君も、心配そうに近寄ってきた。
「痛い……」ひで君は、少し涙ぐんでいる。
「お前、男やろ、泣くな」
「……ん」
  私は、なんて言って、ひで君を慰めたらいいかわからなかった。どうしよう……。 ふと、ポケットの中の、真珠を思い出した。
「ねえねえ、これ見て!」
ひで君もりゅう君も、私の手の中の、小さな珠に注目した。
「これねえ、真珠っていうんやって」
そこで私は、大きく息を吸った。
「これにお願いすると、何だってかなうんよ。だって、魔法の珠なんやもん」
「魔法の珠?」
二人とも、怪訝そうな顔。
「そう!だから、痛くなくなるようにお願いしてみよや、みんなで」
  もちろん、自信なんてあるはずがない。でも、私は思いきって、そう言い切った。
  とりあえず、怪訝そうな顔をしながらも、二人とも目を閉じて、真剣にお願いしているみたいだ。私も、本当に、ひで君の足が痛くなくなりますようにと、真剣に祈った。
  しばらくして、目を開けた。二人も目を開けた。……と、私たちのそばに、色とりどりのあめ玉が、置かれてあるのが目についた。
「ねえねえ、アメがあるよ」
ひで君が言う。
「どうしたんやろ」
と、りゅう君。
「ほうら、この、真珠のおかげよ、多分」
  私は、ホッとしながらも、少しだけ得意になって、また真珠をそっと、ポケットにしまった。
  三人で仲良く、あめ玉を食べた。ひで君も痛みを忘れていた。祖母が扉の外で、その様子に、微笑んでいるのに気づかずに。

 大好きだった祖母は、三年前に亡くなった。
  今、三人とも、二十七歳。ひで君は、来年の春、結婚するそうだ。
「あの時は、ホントに不思議に感じたよな。お前は、超能力者かと思った」
  なんとなく、あの時のことが忘れられなくて、彼女に真珠のアクセサリーをプレゼントしたらしい。
「魔法の真珠なんだから、幸せになれるよって、彼女にいっておいてね」
というと、
「オッケー」
といって、にっこり微笑んだ。
  今も持ち歩いている、祖母からもらった真珠の珠は私の宝物。想い出をくれて、幸せを運んでくれる魔法の真珠だ。おそらく、これからもずっと……。

(「パール・エッセイ集Vol.4」の作品より)








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