真珠パールエッセイ・私の真珠物語
 

「満月の夜」       守山晶子


 私は、自分の手が嫌いだった。大きくて、男の人の手のようで、恥ずかしくてみっともなかった。だから目立たないようにと、指輪の一つもしない飾りっけのない手をしていた。
 でも、彼と手をつないで歩きたくて、ドキドキしながら、そっと指をのばしてみた。それを察してか、彼が手をギュッと握りしめてくれた。私より大きな手、そしてとても暖かいぬくもりのある手だった。
 冬の寒い日は、彼のポケットで暖めてもらった。きっと心の中で、窮屈だなぁって、もっと可愛い手だったらなあって思っていたのだろうけれど、何も言わずにいつも離さないで歩いてくれていた。
 もう何度も一緒に歩いた道、見慣れた景色の中でも一番好きだったのは、冬の夜空だった。私は、冬の満月の夜が大好きでいつも空を見上げては、次はいつ満月になるんだろうって指折り数えたりしていた。彼と一緒に。
 そして、その日はとっても綺麗な満月が二人を照らしてくれた。何の明かりもいらないほどの輝いたまんまるいお月様。それは、まるで深い海の底に沈んだ真珠のようだった。
 私は、つないでいた手を離し、彼のポケットから急いで出すと、空高く夜空へ向けた。いつもと同じ大きな手だったけれど、指と指の間からお月様を覗かせると、大きな真珠の指輪をしているようで、私の手が少し女らしくなったように思えた。
 そんな私の手を見て、彼は何て言うだろう。少しドキドキしながら言葉を待っていたけれど、何も言ってはくれなかった。たださりげなく微笑んでくれただけだった。
 次の日も、また同じ満月の夜で同じ道を歩いていた。その時、今度は彼がつないでいた私の手を昨日のように、満月と合わせながら言った。 「空にある真珠の指輪かあ。とてもよく似合っているよ。でもそれじゃ、朝になると消えてしまう。あの満月ほど大きくはないけれどきっとこの方がもっと似合うはずだ。」
 少し照れながら、彼が左手の薬指に本物の真珠の指輪をはめてくれた。
 それは、小さくても、広い宇宙に存在するたった一つのお月様に負けないくらい、とても上品に美しく輝いていて、私の心まで輝かせてくれた。
 それから、自分の手が、とても好きになった私。
 そして、月のない夜空でも私が左手を高く上げれば、真珠は満月になって、二人を優しく照らしてくれる。
 とても美しく輝いて…。

(「パール・エッセイ集Vol.4」の作品より)








愛媛県漁協 本所 真珠課 愛媛県漁協 本所 真珠課
〒790-0002 愛媛県松山市二番町四丁目6番地2
TEL:089-933-5117 FAX:089-921-3964
フリーダイヤル:0120-42-5130
E-mail:m-shinju@ehimegyoren.or.jp

愛媛県水産会館