真珠パールエッセイ・私の真珠物語
 

びっくりプレゼント       尾澤 敦子

 「おめでとう」
 その日の朝、息子が突然、そう言って私に一枚の紙を差し出しました。
 「ありがとう」
 とりあえず、お礼を言うと、私はじーっとその紙を見つめました。
 大きな丸が書いてあって、一番下に妙な動物がついています。イヌ?タヌキ?それともネコかな?とにかく、謎の物体です。
 (これは一体なんだろう?)
 私は朝食を作りながら、ずっと考えました。直接、息子に聞けば良いのですが、もっと考えてみたい気もします。
 それに、五歳の彼が一生懸命に書いた『贈り物』が、何だかわからないなんて言うのもちょっと気がひけます。
 こんな親の心配(?)をよそに、彼はトーストをおいしそうに食べ始めました。
 「うれちい?」
 突然、息子が私に話しかけてきました。彼はまだ、サシスセソが上手に発音できません。つまり、「嬉しい?」と私に聞いた訳です。
 「うん、嬉しいよ」
 「いちばん、ほちいものだもんね」
 ああ、大きなヒントです。彼は私の一番欲しいものをくれたつもりです。そう、今日は私の誕生日でした。
 (確か、おとといくらい、私にそんなことを質問してきたっけ。「いちばん、ほちいものはなあに?」てな具合で…)
 私は、記憶の糸をたどってみました。夕飯の支度をしているとき、多分「真珠のネックレスが欲しいわ」と言ったはずです。
 (えっ、これが真珠のネックレス?)
 もう一度、よーく見てみました。
 どう見ても、土俵の外に立っている謎の動物という感じです。とても、真珠のネックレスには見えません。
 (大体、この子は真珠なんて知っているのかしら?)
 新たな疑問がわいてきました。優しい声で息子に聞いてみます。
 「ねぇ、真珠のネックレスをくれたのね?」
 「うん」
 「真珠って、知ってるの?」
 「うん、パパからおちえてもらった」
 息子は、牛乳をコップ一杯飲むと、テレビを見始めました。
 (夫は真珠をどう説明したのかしら?これはどう見ても動物らしいが…)
 息子を傷つけないように、そーっと洗面所で歯磨きしている夫の横へ行きました。
 「ねぇ、優貴から、おとといか昨日、なにか質問されなかった?」
 夫はキョトンとした顔をしていましたが、しばらくすると何か思い出したように急に笑い出しました。
 「ああ、『真珠のネックレス』だったのか。僕は『鎮守のネックレス』って言っているのかと思って…」
 夫は、歯磨き粉で真っ白になった口をカパカパさせて笑っています。
 「『鎮守ってなあに?』って聞くから、神社に連れて行ったんだ。これ、狛戌だよ。すごいなあ。これは、笑える」
 夫は、もう一年分くらい笑っています。
 ああ、息子は私に『鎮守のネックレス』をくれたのでした。それにしても不思議な存在を考え出したものです。
 と、思った時、私の頭の奥からイヤーな加古がズンズンとしゃしゃり出てきました。
 あれは、十年前。まだ、私達夫婦が婚約中のことでした。夫から誕生日のプレゼントはなにがいいか、と聞かれたのです。
 「カメオのペンダントなんて素敵」
 私は目をハートにしながら、そう答えました。そして、私の誕生日。
 夫のプレゼントに私は、腰を抜かしそうになったのです。
 原宿のティーンエージャー向けのビルにある、ユニークなアクセサリー店。そこでやっと見つけたという私へのプレゼントはなんと…
 『おかめのブローチ』だったのです。
 『ひょっとこ』や『般若』と一緒にブローチやイヤリングになって、ディスプレイしてあったんですって。
 (蛙の子は蛙、ですね)
 家族を送り出し、ひとりになって考えると、ちょっぴり情けない気もします。でも、私の想像をはるかに超えるプレゼント。この先、何が出るか楽しみな気もするのでした。

(「パール・エッセイ集Vol.3」の作品より)








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