真珠パールエッセイ・私の真珠物語
  〜「私の真珠物語 パール・エッセイ集VOL.5」 最優秀賞〜
◆温かい真珠     家郷 旬加

画像  生まれて初めて手にした真珠は、思っていた以上に、淡くて白くてピンクで、美しくもあり、可愛くもある。
 今まで、真珠は大人のもので、私なんかには無縁のものと思っていたから、私は真珠を見つめたことがなかった。私は二十二才で彼に出会った。二十三才で結婚を意識して、その年のお正月に彼の両親と初めて会った。彼のお母さんは世話好きの話上手で、私はすぐに打ち解けた。お父さんはと言うと、私とは一度も目を合わせない。私がビールを注いでも、目はずっとテレビから離れなかった。
 それから六カ月して彼との結婚が決まった。私はけっこう現実派で、無駄なお金は使いたくなかったから、「結納は要らない」「婚約指輪も要らない」と言った。彼もそれに同意したし、結婚に関しては何もかも自分たちで決めようと話し合った。私の父は
「おまえらしいな」
と笑った。彼のお父さんは
「結納金は受け取って欲しい」
と言ってくれたけれど、私は二人で決めた事だからとお断りした。
 それからは、式の打ち合わせや、衣裳合わせやらで、月日は忙しく過ぎていった。彼のお父さんはそういった所には一度も来なかったから、顔を合わすこともほとんどなかった。いつのまにか、私の中で彼のお父さんに対しては、苦手意識があったから、さして気にはしていなかった。
 結婚式も三カ月に迫ったある日、私は彼のお父さんに呼ばれた。彼のお母さんは隣の部屋に居て、私はお父さんと二人きりだった。五分程の沈黙の後、彼のお父さんは
「あんたは、結納はしない、指輪も要らないと言った。わしは考えた。あんたに真珠を買うてやる。真珠やったら冠婚葬祭に要るもんや。あんたの言うところの無駄にはならんやろ。それは、息子からではない。わしからや。うちに嫁に来るのに、何にもなしではわしの気がおさまらん。決めたで」
そう一気にまくし立てた。私はア然としたけれど、一呼吸おいてから
「頂きます」
と頭を下げた。お父さんは初めて私の目を見て微笑むと、部屋を出て行った。
画像  日曜日、彼のお父さんとお母さんと、私の三人で約束通り出掛けた。陳列ケースの中の真珠を見ても私は、何だかよく分からなかった。ただ少しでも安い物をと、右端の陳列ケースから見ていった。お父さんは、店の外でウロウロしていて、私もどうするものかと考えていると、店員が左の陳列ケースから真珠のネックレスを出してきた。それは確かに、どの真珠よりも奇麗で、可愛くて、私は、初めて真珠を美しいと感じた。けれどそれは、美しさと比例して値段もかなり高いようだった。素直に言えなかった私は、色が気に入らないからと言って断った。その時、お父さんが店に入って来て
「それにしよう。なっ。母さん」
私の気持ちを見透かしたように、お父さんは一言で決めてしまった。
 そしてその奇麗で可愛い真珠が、今、私の手元にある。私にとってこの真珠は、ただ美しいとか、可愛いとか、色が奇麗とか、それだけの物ではない。結婚して家族となった、私とお義父さんのつながりなのだ。照れ屋で口べたでガンコなお義父さんと、強がりで素直でない私とをつなぐのがこの真珠なのだ。強がって何も要らないという私が、気を悪くしないようにと、お義父さんは考えてくれたに違いない。無駄だからと断らないように、考えてくれたに違いない。この淡く白くピンクで、美しくもあり、可愛くもある真珠。そして、なによりも温かい真珠を、私は一生大事にするだろう。家族とのつながりを大事にするように……。


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